クジラ・イルカ紀行 vol.012 / じゃのひれの「もも」

2018.05.12 Saturday

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    南あわじ市にある「じゃのひれ ドルフィンファーム」。下は「ふれあいコース」プール前の表示。

     

     上の写真は、兵庫県南あわじ市阿万塩屋町にあるレジャー施設「ドルフィンファーム」のイルカプールです。

     この「ドルフィンファーム」は湾の一角をイカダと網で仕切ることで、巨大なプールを作り、その海水プールで「イルカ」と「人」が一緒に泳いだり、触れあうことができるようにしたというレジャー施設です。

     本来は、「陸」と「海」という違った環境で暮らし、漁師の方やダイビングを趣味とされる方は別として、ふれ合うことのなかった二種の「陸」と「海」の」ほ乳類が出会える場所でもあります。それは人間の「癒やし」や「楽しみ」のために、一方的にイルカに犠牲を強いる結果となるわけですが……。

     しかし、そんな環境でも、いや、そんな環境だからこそなのかも知れませんが、「イルカ」とその世話をする「人」の間には、友情や信頼が育まれているように感じます。

     実は、僕が、イルカと初めて接触したのも、このドルフィンファームなのです。以来、ここでの強烈な体験がイルカやクジラにどっぷりはまり込んでしまう結果となりました。

     でもその体験に触れる前に、まずは、泳げない僕が、なぜ、イルカと一緒に泳ごうなどと思うようになったのか、その辺の経緯(いきさつ)から話させてください。

     

     

     写真の人物は、大阪府南河内郡河南町大宝に住む田池留吉というお爺さんです。

     住むというよりか住んでいたと言うべきでしょうか。この田池先生、一昨年の2015年12月、90才でお亡くなりになりました。若い頃は、大変な秀才だったようで、家が貧しかったため、大阪府立市岡中学校(旧制)卒業後は、経済的な理由で陸軍士官学校に入学されたといいます。正確に言うと「陸軍予科士官学校60期」に入学し、卒業後、「陸軍航空士官学校」に配属されたということになります。終戦が近づくや特攻隊を率いて出撃するはずでしたが、そのための訓練もままならないまま、終戦となってしまいました。

     価値観が一変しました。一時は特攻隊を率い死を覚悟し、「何のために死ぬのか」を自分に問い続けた青春時代でした。それが終戦の詔勅(しょうちょく)以降、まったく価値観が変わってしまいました。そんな中、田池さんは大阪高等学校(今の大阪大学)へ再入学され、教師の道を歩き出すことになったのです。

     大阪市立西中学校の補欠要因を皮切りに、母校である大阪府立市岡高校で数学を教え、やがて教頭となり、大阪府立東百舌高等学校の校長職を辞し教職生活にピリオドを打たれました。

     僕が田池先生を知ったのは、この東百舌高等学校の校長先生だった頃です。こんな関係で「先生」が代名詞みたいになってしまいましたが、その田池先生、出会った翌年、定年まであと一年を残して校長職を依願退職されてしまったのです。僕が出会った頃には、まだ校長職をしながら「人間はなぜ生まれてくるのか」「人間の本質は肉体ではなく心」「他人や社会を変えるのでなく、自分が抱えている闇に気づき、自分を変えていこうとしないかぎり何も変わらない」……、それらのことを手弁当で伝え続けておられました。

     そんな田池先生のもとへ、お子さんや家族のことで相談に来られたり、話を聞きに来られたりする方が次第に増え、田池先生も、たくさんの方に本当のことを知ってもらおうと、定年を待たず校長職を辞された次第です。

     僕も最初は反発していましたが、否定できないことが次々と自分の中で起こり、以来、お亡くなりになるまで、三十年以上、勝手に「師」と決め、お付き合いすることになりました。その辺の経緯は、拙著「時を越えて伝えたいこと」(2007年6月刊 絶版のためPDFで無料公開しています)の中に詳述していますので、興味のある方は、お読みください。

     その田池さんがお亡くなりになる前年だったと思うのですが、「イルカ」や「クジラ」について「人間に近い存在で私も興味を持っている」と話されたことがあり、「言葉でなく意識で通じ合える存在だ」とも言われました。まあ、すべての生き物がそうなのだと思うのですが、特にイルカやクジラにはそう感じさせる「何か」があるようです。このときは、たくさんの人の前で話されていたのですが、いきなり「なあ桐生さん、頼んだで……」と、なぜか名指しで頼まれてしまうことになりました。

     長くなりましたが、これが、僕が「イルカ」や「クジラ」に」興味を持つようになった最初です。

     

     ところで、人間は言葉を使います。だから言葉を信じがちです。でも、言葉で「あなたは良い人だ」と言っても、心では「おまえは嫌なやつだ」と思っているかもしれません。そうだとすれば、どちらが本当の姿でしょう。「良い人だ」という言葉とは裏腹に、その人からは「嫌なやつだ」という思いが流れています。思いはエネルギーですから、表面うまく行っているように見えても、いつか破綻を来すという事態が起こってきたりします。

     これに対し、動物は言葉でなく、鳴き声や吠え声に、喜びや怒り、悲しみの波動を乗せます。その最たるものがイルカやクジラたちのように感じます。高度に発達した知能を持ちながらも、鳴き声に何とも言えない優しい波動を感じさせます。僕の知人に「イルカの学校」を主催されている岩重慶一さんと言われる方がおられます。この方は、不定期ですが、子供たちを御蔵島で野生のイルカと遊ばせるということをされています。この岩重さんの体験ですが、イルカの発するクリック音(超音波)を正面から受けたことがあるそうです。そのときは、水中めがねがビリビリ震えたかと思うと、お腹のあたりがカーッと温かくなり、次には何とも言えない充足感に包まれ、胎児に戻ったかのような安心感に包まれたと言います。

     

    イルカがエコロケーションのために発する超音波、その時に発する音をクリック音と言います(ドルフィンファームの案内書から転載) 。

     

     クリック音というのは、イルカがエコロケーション(反響定位と訳され、つまり超優秀なソナーのようなものです)のために超音波を発しますが、その時に出す音のことです。イルカの目を見てみると身体の両サイドに付いていて前を見ることが出来ないのが分かります。しかも暗い海の中で、前方のものを確認する方法がエコロケーションということです。人間がイルカの出す超音波の直撃を受けたとき、なぜ、このような現象が起こるのか、僕にはその原因を説明できるような知識を持ち合わせません。

     これ以外にも、須磨水族館と京都大学が共同で行ったテストでは、これも理由はわかりませんが、イルカの画像を見た被験者の脳波は、多の動物の画像を見た、あるいは何の画像も見なかった被験者より、情緒の安定度が非常に高くなっているというテスト結果があります。アニマルケアという言葉がありますが、イルカは、犬や猫など、多の動物と比べ、ダントツにケア度が高いと言われています。

     誤解しないでください。だからといって、イルカは人間のケアのために存在している訳ではないのです。

     ただ近年、イルカやクジラが人間と接触する機会が増えていることは事実です。タイガーシャークに囲まれた水中カメラマンをザトウクジラが救った話、網に絡まったイルカ、クジラを人間が網を切って助けた話、そのほかネットを検索すれば、たくさんの事例がこれでもかと言うほどヒットしてきます。

     

    「ドルフィンファーム」で配られている手作りの案内書の一部

     

     前置きがずいぶんと長くなってしまいました。

     さてと、この写真は、ドルフィンファームで、スイムコースに参加した人に配られる手作りの案内書の一部です。所属するイルカさんたちが、その性格を表す一言ともに紹介されています。僕の姪っ子がドルフィン・スイム(イルカと泳ぐプログラム)に参加し、もらってきたものです。それを、また僕が借り受けたという次第です。

     この紹介ページを使って、僕の実験がスタートしました。まだ見ぬイルカさんと思いを通じ合えるのかという実験です。まずターゲットとなる特定の一頭を選びます。選ぶ根拠はありません。若い頃、ミヒャエル・エンデという作家にのめり込んだことがあります。彼の作品の中でも特に好きだったのが「モモ」。そこで選んだのが「もも」というイルカです。写真の下には「性格:食いしん坊、頑張り屋」さんとあります。

    「もも」の写真を携帯に取り込み、ことあるごとに開いては、その「もも」の写真に心の中で語りかけました。「こんにちわ」にはじまり、自己紹介をしてみたり、「今度、会いに行きますので、よろしく」だったり、写真を開かなくても、「もも」と、ただ思ってみたり、そんな他愛もない繰り返しを2週間近くもやったでしょうか。

     そうする一方で、スイミングスクールの個人レッスンを申込み、イルカと自由自在に泳げるようになろうとしました。

     ……が、これは失敗でした。水に対する恐怖心が抜けず、身体が硬くなり、あげくは頭がガンガン痛みだす始末。ともかく浮いて前へ進むぐらいはできるようになりましたが、イルカさんと自由自在に泳ぎ回るなんて、夢のまた夢のことです。

     でも、めげてはいられません。泳げないイルカの学者さんだっているんだから……そう、自分に言い聞かせ、女房と二人、ドルフィンファームのスイムコースに予約を取った次第です。

     

     次回は、いよいよ「もも」との衝撃的な出会いのことや、「かえで」に助けられるという、忘れることのできないイルカさんたちとの体験を語ります。

     

    ももでーす!(みなみあわじ、じゃのひれの「ドルフィンファーム」にて)

     

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