クジラ・イルカ紀行 vol.009 / 天草のミナミバンドーイルカ

2018.04.09 Monday

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    沿岸部を泳ぐミナミバンドーイルカ
    天草通詞島沿岸部を泳ぐミナミバンドーイルカ

     

    私たちが普通イルカと言って、水族館やレジャー施設で出会う種類はバンドーイルカが圧倒的に多いのです。というのも、バンドーイルカが、もっとも頭が良く人にも良く慣れる性質があると言われているからです。一頃、映画「ザ・コーブ」が日本でも公開され、これによって和歌山県太地のイルカ追い込み漁が問題になりましたが、その中で、入江に追い込まれたイルカを、水族館やレジャー施設の学芸員の方が選んで買い付けていくシーンがありました。 これは何を選んでいるかというと、バンドーイルカのメスを選んでいるのです。これもバンドーイルカ、特にメスのバンドーイルカが、頭が良く、人にも良く慣れ、調教しやすいと言われているためです。

    イルカブームの火付け役となったアメリカのテレビドラマ「わんぱくフリッパー」(1966年〜1968年にかけて放映)の主人公もバンドーイルカでした。

    このようにバンドーイルカは、我々にもっともなじみの深いイルカなのですが、では、今ここで取り上げているミナミバンドーイルカとはどう違うのでしょうか?

    前回でも触れましたように、2000年までは、ミナミバンドーイルカもバンドーイルカの亜種と思われていました。それほどよく似ているわけで、我々素人には見分けがつきませんし、どちらでも良いようにも思えてしまいます。

    でも、もうちょっと頑張って、その違いを勉強しておきましょう。

    まず大きさですが、バンドーイルカは成長して約4m前後になると言われていますが、ミナミバンドーイルカは約2.5m前後、つまりバンドーイルカよりも小ぶりな訳です。

    ついで吻(ふん)――これは動物の体において、口あるいはその周辺が前方へ突出している部分を指して言う言葉ですが――これが、どちらも突き出しているのですが、バンドーイルカのほうが丸っぽくてぽっちゃりしている感じがあります。これに対しミナミバンドーイルカは、ほっそり長く突き出しているような感じなのです。

    ほかに外面的な特徴として、ミナミバンドーイルカは、成長すると腹部にまだら模様ができると言われています。これは僕も見たことがないし、船からのウォッチングでは確認することが難しいと思います。ただ背びれが、バンドーイルカが丸みを帯びた三角形なのに対し、ミナミバンドーイルカはとがった三角形に近いと言われています。うーん、これも個体差があって、実際には背びれだけで判断は難しいと思います。総合的に判断するしかないと思います。

    さて最後に、これが最も重要な違いなのですが、住む場所が違うのです。

    バンドーイルカが沖合を長距離移動しているのに対し、ミナミバンドーイルカは、沿岸部に群れをなして住み着く性質があります。

    日本での分布は、伊豆諸島、なかでも御蔵島の野生イルカ、それに石川県の七尾湾、そして今回行く天草の五和町通詞島の沿岸が最も有名ということになるでしょうか。

     

    産交バス旧二江小学校前を海のほうへ下っていくとイルカウォッチング発着所に着く。

     

     (ミナミバンドーイルカの群れが沿岸部にいることがよく分かる)

    さて、今回は熊本から天草までを長距離バスで向かうことにしました。海辺の景色を楽しみながら約2時間半、バスはやがて、終点の本渡バスセンターへと到着します。ここからは富岡港行き路線バスに乗り換えますが、本数が少ないので事前に調べておいた方がよいでしょう。無事バスに乗れましたら「旧二江小学校前」で下車し、ここから海を目指して下っていくと約5分でイルカウォッチング発着所に着きます。

    発着所には、「平成27年度イルカの絵コンクール」の入賞作品が展示されていました。幼稚園、保育園の子供たちが描いたイルカの絵ばかり。ウォチング船が出るまでの待ち時間、一枚一枚の絵を眺めていますと、天草の「イルカ」と「人」の関係が端的に表れているように感じました。

    イルカ(自然)と獲物を取り合うのでなく、イルカ(自然)と共に生きている、そんな感じを受けるのです。

    そうこうするうち、もう一人、ウォッチング船に乗る若い女性が発着所の待合に入ってきました。さわやかな感じの女性で、見れば、モータードライブのすごいカメラを抱えています。

    受付の男性に紹介され、彼女が長崎大学水産学部の研究室の学生さんで、定期的にミナミバンドーイルカを観察しに来られているのだと知りました。

    出発の時間です。

    乗船する船は、入江一徳船長の操船する「天神丸」。ほかにも「大潮丸」「久栄丸」の2船がともに出船することになっています。乗船客を観察していますと、何組みかの親子連れのほかに、車椅子の障害者の方もおられ、同じ車椅子の方でも、ご老人の方もおられるようで、クルーの方たちが車椅子の積み込みに精を出しておられました。

     

    (入江船長と天神丸/出船準備のクルーたち)

     

    いよいよ出船となり、船長や長崎大学の学生さんと話すうち、早くもイルカの群れと出会いました。

    いくつかの群れが次々と現れ、船の舳先や舷側をブロー(潮吹き)しながら泳ぎ回り、たちまち海を覆っていきます。これがバンドーイルカのウォッチングや、クジラのウォッチング、はたまたシャチ(オルカ)のウォッチングであれば、こう簡単にはいきません。まるで出会えないときもありますし、出会えても、遠くからブローが見えただけというときもあります。沿岸部を拠点に群れで生息するミナミバンドーイルカならではの壮観です。

    石川の能登島では、一つの群れでしたが、ここでは無数の群れが生息しているため、ウォッチングでイルカと遭遇できる確率は、ほぼ100%と言っても過言ではありません。

    僕の横手では、モータードライブのカメラが、シャッターを押すたび「ウォーン、ウォーン」と、小気味よい音を立て続け、僕も負けじとHDムービーカメラを回します。

     

    出船するや、たちまち現れたミナミバンドーイルカの群れ

     

    もう話を聞いている間もありません。いったん海が静かになったと思っても、すぐ横に「ブオッ」という音とともにイルカが群れで顔を出す。船の先頭を行ったかと思うと、船の下をくぐり横切っていく。子供たちのはしゃぐ声。ブローの音、イルカの声。ウォッチング船も含め、周囲一帯が、一つの興奮状態に包まれている、そんな感じです。イルカたちも、そんな雰囲気を楽しんでいるかのようで、人とイルカと海が、まるで一つになったような時間が連続していきます。

     

     

     

     

    そろそろ話をまとめなければなりません。

    そこで、NHKの番組「ニッポンの里山/イルカと生きる里の海」(熊本県天草市)に話を戻しましょう。そこには天草の漁師たちの思いが隠されていました。彼らは海を豊かにするため、一日の漁獲量を制限し、さらに手の空いた時間には海へ潜り海藻を植えて回っていたのです。

    海が豊かになれば、イルカたちも住み着く。漁師さんたちは言います。

    「イルカが泳ぎまわる海は、海が豊かになってきた証し」だと。

     

    前々回、壱岐のイルカ事件を紹介しました。そこで言われるように、イルカたちが漁師さんたちの獲物を横取りする、いわゆる「食害」になっていたことは間違いありません。しかし、イルカが来なくなっても、漁獲量は回復せず減少する一方だと聞いています。イルカの食害は、表面的な問題で、実は海が豊かでなくなってきている、それが根本的な原因だったように感じられます。

    海の豊かさを取り戻そうとする天草の漁師の人たち、同様に1000キロ離れた能登島の漁師の人たちも、糸もずくの採集を通して、海藻を大事にすることで海の豊かさを守ろうとしています。

    海藻が茂ることにより、小さな海の生きものが集まり、それをエサとするイルカたちも集まってくる。

    海を豊かにしようとする能登島の漁師の人たちの思いが、はるか南のイルカたちを呼び寄せたのではないでしょうか。能登島ではミナミバンドーイルカの新たなポッド(群れ)が成長しつつあります。それと平行するように、能登島の海も豊かになっていく。「やさしい思いが豊かな海を育てる」、その優しさに導かれ、南のイルカが北の海へとやってきた、そんな印象を、天草通詞島と石川能登島の取材で感じた次第です。

     

    天草エアラインの新しいプロペラ機 MIZOKA ATR2-600

     

    行きはバスでしたが、帰途は天草空港から、イルカさんの飛行機に乗って天草を離れることにいたします。

    次回は、能登島よりずっとずっと北へ。北海道は釧路の海で、シャチ(オルカ)探査船に皆さんを招待することにいたします。

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