クジラ・イルカ紀行 vol.008 / 能登島のミナミバンドーイルカ

2018.04.04 Wednesday

0
         NHK「ニッポンの里山 イルカが暮らす里の入江」

    NHKの朝の番組に全国各地の里山を紹介する「ニッポンの里山」という長寿番組があります。そのシリーズの中で「海の里山」として紹介された二つの場所、それが熊本県の天草と石川県の能登島です。

    2013年 1月28日に放送された「イルカと生きる里の海(熊本県天草市)と、2014年9月29日放送された「イルカが暮らす里の入り江」(石川県七尾市)が、それです。

    そして、この二つの地域をつないでいるのが、天草のミナミバンドウイルカなのです。

     

    ところで、石川県の能登島にイルカが住み着いていると言えば、本来は「カマイルカ」のことだと思ってしまいます。ところが、この北の海に住み着いているのは意外なことに「ミナミバンドーイルカ」の群れなのです。

    ミナミバンドーイルカについては、従来、バンドーイルカの亜種であるとされていましたが、2000年の国際捕鯨委員会 (IWC) 科学委員会により別の種とされました。

    そして、その生息地の北限が、石川県七尾市能登島の七尾湾ということになるそうです。

    さらに驚くことには、この七尾湾のイルカ、もとは天草沖合に2000頭以上のミナミバンドーイルカが暮らしていますが、その中の2頭のつがいが移り住んだものだといわれています。

    ちなみに天草市五和町から七尾市能登島まで、およそ1000キロメートル。その距離を2頭のイルカ夫婦が北上し、能登島で新たな群れの始祖となったという次第です。

    大克丸と大橋克礼船長(石川県七尾市能登島)

     

    上の写真は、僕が能登島に、南バンドーイルカの取材に訪れた際、ウォッチングの船を出してくれた大橋克礼船長と、その持ち舟・大克丸です。大橋船長は、もともとはこの能登島で郵便局に勤めておられました。それが定年退職後、退職金で、この大克丸を手に入れ、イルカのウォッチングと釣りイカダのレンタルを生業とするようになりました。大橋船長は、ミナミバンドーイルカが、この七尾湾に住み着くようになってこのかた、イルカ夫婦が一族をなしていく変遷を垣間見てこられた方なのです。

    その大橋船長に、「本当に天草のバンドーイルカなのですか」と尋ねてみました。

    船長が言うには、七尾湾にイルカが住み着くようになって騒がれ出した頃、長崎大学の水産学部の先生が調べに来られ、間違いなく天草のイルカだと断定したというのです。というのも、長崎大学水産学部では、長年、天草のミナミバンドーイルカの個体識別をおこなっており、背びれや尾びれの形、胴体の傷や特徴から、天草のイルカは、ほぼ特定できるようになっているのだと言うことです。

     

    沖合でなく沿岸部まできて遊ぶ南バンドーイルカの群れ

     

    さて、このイルカのことで、「まだ面白いことが……」というか、わからないことがあります。

    それはイルカ社会がメス社会で、一夫一婦制ではないということです。クジラの仲間で、一夫一婦制なのはシャチだけだと言われています。シャチは夫婦の絆が強く死ぬまでともに暮らすと言われています。これに反しイルカはオスは種付けをするだけで群れには残りません。そうして生まれてくる子も、メスならグループに残りますが、オスの子は成長すると群れを離れていきます。こうしてイルカグループは、大お婆さんをリーダーとして、その娘、そのまた娘とが連なりグループを形成していくというわけです。グループに子供が生まれると、メス同士が助け合って育てていきます。もし子育て中の親子イルカを見ることがあっても、二頭のイルカは夫婦でなく、お母さんイルカとそれを助けるおばさんイルカというわけです。

    それが意外なことに、天草から遠く離れ、石川県は能登島の七尾湾まで旅をしたイルカ夫婦なのですが、大橋船長が言うに、今も夫婦で、オスはグループに残っていると言うのです。七尾湾で新たに生まれた子供たちは、ルール通りオスの子は群れを離れていっているようです。ところが、群れの始原の二頭は、今もオスがグループにとどまっていると言うことです。

    ことの真偽を確かめるべく、長崎大学水産学部の天野教授へ電話を入れたところ、大橋船長の話は間違いなさそうです。不思議に思い「どうしてこんなことが起こるんですか? イルカ社会はメス社会で、オスは離れていくと、どのイルカの解説書にも書かれているんですが……」

    「そんなことを言っても、現にあるんやからしょうがない!」

    これは当事者である能登島のミナミバンドーイルカ夫婦に訊いてみるより仕方がなさそうです。

    イルカが話せたら、いったい、どんなロマンスを語ってくれるのでしょう?


    さて次回は、この七尾湾のイルカ夫婦のふるさと「天草」を紹介させていただきます。

    「石川」と「熊本」、1000キロ離れた北と南の二つの海域には、いったい、どのような共通点があるのでしょうか? 人間と自然、その関係に新たな視点を見つけることが出来るのかも知れません。

     

    コメント
    コメントする
    トラックバック
    この記事のトラックバックURL