ふるさと地盤診断ウォーク「亀の瀬地すべり」 vol.4 幻の鉄道トンネル

2011.11.05 Saturday

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    亀の瀬・排水トンネル見学のあと、いよいよ2年前に発見された旧国鉄関西線 ・亀の瀬トンネルにはいることになる。昭和7年の亀の瀬地すべりで圧壊され消失したと思われていた鉄道トンネル。それが地下水の排水トンネル建設中に偶然発見されたものだ(左写真はトンネルの発見を伝える平成21年12月10日朝日新聞の記事)。
     まずは、このトンネルの全体像を、JTB発行「地形図でたどる鉄道史」(今尾恵介・著)から見ておこう。

    「広い大和盆地(奈良盆地)を流れる飛鳥川や竜田川、葛城川などすべての川は大和川の1本にまとまり、河内の大阪平野を目指すのだが、その喉の部分にあるのが亀ノ瀬である。ここは生駒と葛城の両山脈の末端部に挟まれた、まさに隘路と呼ぶにふさわしい難所で、大阪府と奈良県の境界(大和・河内国境)もここを通っている。
     明治に入り、大阪と奈良を結ぶ鉄道を計画した私鉄の大阪鉄道(のち関西鉄道、現・関西本線)はここを通すルートに決め、まず明治22年(1889)に大阪ミナミの湊町を起点に柏原までを開通させた。奈良からも翌23年に王寺までを開業、残りは柏原〜王寺間のこの峡谷の隘路だけになったのである。
     亀ノ瀬には当初亀ノ瀬(431m)、芝山(216m)などのトンネルと、大和川に架かる3つの橋梁が建設された。明治22年に着工されたのだが、この地域が厄介な地滑り地帯であったため、これらのトンネルに異常な圧力がかかり、工事完成後に煉瓦に亀裂を生じ、崩壊する危険が出た。大阪鉄道では明治24年(1891)に当局に改築許可願を出しているが、これらのトンネルを掘り直すなどで時間を費やしたためにこの区間だけ開通が遅れてしまった。会社は苦肉の策としてトンネルの西側に亀瀬仮停車場を設置、東口付近に設けた稲葉山仮停車場との間を人力車での連絡を始めた。トンネルはようやく明治25年に改築完成し、同年2月2日に同区間が開通、これで湊町〜奈良間41・2劼ようやく全通した。同時にトンネル東西の仮停車場は廃止となっている。
     その後、この区間は輸送量の増大とともに複線化され、列車が増発されたが、この地城の地質構造が変わったわけではなく、昭和7年(1932)1月に大規模な地滑りが発生、亀ノ瀬トンネル(改築後。上り699m、下り703・5m)が圧潰し、周囲の地形は一変した。
     このため鉄道省はトンネルの東西に、亀ノ瀬西口・亀ノ瀬東口という開業時のような仮駅を昭和7年2月20日に設置、両駅間は徒歩連絡とした。」



     上の写真、まるで合成写真のように見えるが、そうではない。新たに排水トンネルとして掘られたところと、発掘された鉄道トンネルの境目である。



     鉄道トンネルの終点。地すべりによる瓦礫でトンネルが塞がれてしまっている。
     では、以下、例によって大和川河川事務所・平松さんの案内で、トンネルの中を見てまわることにする。

     「けっこう石が大きいですね。破壊力も凄まじかったのかなあと思います。
     ちょっと上の方を見ていただけますか。蒸気機関車が走っていたから真っ黒だろうと思いますが、白いですね。これは何だという話になりませんか。
     カビ? ウーン、これは今ではあまり使われなくなった漆喰(しっくい)……煉瓦と煉瓦をくっつけるための糊みたいなものですね。これが昔の建物の接着剤としては主流だったんです。つまり、そういう時代に造られたトンネルだということです。漆喰が使われなくなって、モルタルが使われるようになったのは、明治24年と言われています。この年、濃尾地震が起こり、煉瓦と漆喰の構造物が弱いということがわかって、漆喰と煉瓦の組み合わせが日本から一斉に消え去っていくことになりました。ですから、このトンネルは、それより前に造られたということになります。ハイ、明治22、3年に完成したといわれています。大阪天王寺から王子を通って奈良をむすぶ鉄道で、ここが最大の難所だったと聞いています。



     この線は、伊賀上野を通って伊勢へ通じ、お伊勢参りの足になっているため、このトンネルが昭和7年に潰れて、昭和9年の正月には、対岸側に線路を付け替えてお伊勢参りの人たちを運ぶということが至上命題になってきます。対岸の線路は大忙しで造られたといわれています。
     ところで足下を見ていただけますか。枕木も線路もないですね。当時、鉄道に使われていた「鉄」というのは非常に貴重なもので、最上級品でした。熱に対しても、膨張率を少なくして形をそのまま維持し、重いものが上を通っても割れたり、ひびが入ったりしないというものでした。地すべりというものは、前にも言いましたようにジワジワと進みます。ですから、このトンネルが地すべりで潰れてしまうと分かったあと、線路を全部撤収したようです。このトンネルが発見されたときも、このまま、なんにもありませんでした。もうちょっと何か残っていたら、私たちもそれを活用しようかと思ったのですが、発見されたときから、このような状態でした。

     あと煉瓦の積み方で、これからご覧になるとき参考にしていただければいいと思いますが、皆さんの目線よりちょっと上ぐらいまでは、線路の進行方向に対して、長い煉瓦と短い煉瓦が段ごとに替わっているところがあります。ところが、あるところより上に行きますと、進行方向に向かって長い煉瓦だけが積み上げられるような形に変わっていますね。これをアーチ積みと言います。また長い方が手前に見えているので、長手積みという言い方をしています。それに対してアーチの部分を支える、私たちの目線より下の部分は、ちょっとした変化、力のひずみを吸収するために、このように長いものと短いものを組み合わせて積むというやり方があります。こういう積み方が当時のオーソドックスなやり方であったわけで、これをイギリス積みと言います。ほかにも積み方があるようですが、これが標準的な煉瓦の積み方だと言います。これから明治時代の煉瓦構造物など見るとき、煉瓦の積み方にも注目していただけたら、昔の技術者のメッセージが読みとれるのかなあと思います。


    (トンネルの煉瓦積みで、目線より下の部分は、短い煉瓦と長い煉瓦が一列ずつ交互に組まれているのが分かる。写真には写っていないが、上の部分は長い煉瓦ばかりが組まれている。)

     また、煉瓦積みのところどころに窓が開いています。これは私たちが開けたわけでなく、当時、地すべり観測をするために開けたのかなあと思っています。トンネルの裏側がどうなっているのか、ちょっと見ようと言うことで開けたのではないかと思います。トンネルの厚みも分かりますし、奥の方の煉瓦の組み方も分かります。ここで大体30センチ〜40センチあるでしょうか。
    私もここへ来て教えていただいたのですが、煉瓦と地山の間がくっついていないんです。煉瓦だけで保たしてるんです。ということは、地山の変化に影響されないよう計算されていたんだなあと推測されます。
    (これに対し菅野氏が、トンネルというのは、上側のところと地山の間に隙間があってどうしても埋めることが出来なかった。これが20年ほど前に新しい工法が開発され、コンクリート構造物と地山の隙間をなくすことが出来るようになった。これによって青函トンネルも可能になったということを補足説明される。)
     ところで、このトンネルは40年間使われ、地滑りに遭い、そのあと80年間、誰もこのトンネルが残っているかは分からずに来ました。その間、一向に手を入れていないのにこのまま保たれてきました。阪神・淡路の地震の時も、亀の瀬でも震度4〜5ぐらい揺れましたが、見ての通り形を保っています。これはこれで、すごいものがあります。当時の技術者たちの知恵の結晶と言えるでしょう。
     最後になりますが、このトンネルの利用法、たとえばコンサートをするとか、レストランにするとか、何か良い利用方法があればご連絡ください。」

     という説明で鉄道トンネル跡の見学は終わった。
     ただ地質学者・菅野氏は言う。
     「本当の所は、人が入らないほうが良いのです。この亀の瀬地区の課題は、水を入れないことです。そのために排水トンネルを掘っているのですから……。人が入ると必ず水が入ります。観光客が来るようになると屎尿処理の問題がついて回るのですから。我々は水がないと生きていけませんが、同時に水が災害の原因となっています。災害のないところへ行こうとすれば、水のないところに行くしかないのですから。」

     このあと、亀の瀬地区から、次の高井田横穴古墳群まで、約1時間近くを歩くことになる。この間、案内の菅野先生から、あずき火山灰層や、それを発見された菅野氏の恩師・中世古幸次郎先生の話、磁場の逆転、すなわちこれから先、N極とS極が入れ替わる可能性もあるという興味深い話等々を伺うことになるが、それはまた別の機会ということで、今回の「亀の瀬地すべり地」を歩くは、「完」ということにしたい。

     

     

     


     

    ◇ご案内

     

     

    「あなたの知らない奈良のかつらぎさん ―かつらぎガイドブック―」

    ISBN978-4-909201-06-5 A5判 250ページ(オールカラー) 1,200円+税

     

    2018年12月20日、この本の出版協力者の呼びかけが、クラウドファンディングでスタートしました。
    書店が良心的な「少部数出版物」と「読者」との出会いの場所でなくなった今、「本」と「読者」を結ぶ新しい試みだと思います。ぜひ、内容をご確認の上、ご協力をお願いいたします。

     

      協力の内容 1口 2,500円には

      あなたにお送りする「本」1冊1,200円/図書館用に寄贈する「本」1冊1,200円/発送費 2件分500円

      が含まれています。


    ご申し込みいただいた方は、上記タイトルの本を1冊送らせていただくほか、この「本」の巻末に「応募者の氏名と都道府県名」を、出版協力者として掲載させていただきます。例:「山田太郎 大阪府」「山本花子 奈良県」


    https://readyfor.jp/projects/katsuragi 

     

    表紙は、大阪芸術大学デザイン学科3回生 津村凪咲さん提供のものに決定しましたが、細部は変更になる可能性があります。

     

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