DTP Booster014に参加 vol.3「成功する電子書籍ビジネス〜ビジネスの立ち位置が天国と地獄を決める〜」

2010.06.26 Saturday

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    DTP Booster014のトリをつとめたのが田代真人さんだが、その会場で彼の書いた「電子書籍元年−iPad&キンドルで本と出版業界は激変するか?−」が販売されていた。奥付を見ると、2010年5月21日初版発行となっている。出たところだ。また、セミナーでの田代さんの話は非常におもしろかったのだが、時間切れで尻切れトンボになってしまった。もう少ししっかり聞きたいと思い、この本を買うことにした。これが結構おもしろい。
    そこで、この本の内容も引っくるめて、DTP Booster014の最後のセッション「成功する電子書籍ビジネス/ビジネスの立ち位置が天国と地獄を決める」について紹介することにする。

    まず田代氏は、冒頭、会場に集まった人たちに問いかける。
    「電子出版でビジネスを考えている人、手を挙げてください」
    大半が手を挙げる。続いて、「では電子出版を趣味でやろうとしている人?」
    パラパラと手が挙がる。

    セミナー会場風景05.jpg

    すかさず、「実は趣味でやろうとしている人が一番怖いんです。採算を度外視して良いものを作ろうとするからです」と、田代氏は続ける。僕はどちらにも手を挙げなかった。
    「ビジネスか、趣味か、どちらかしかないのか?」と、生来のへそ曲がりが頭をもたげる。
    菊池寛の小説に「恩讐の彼方に」という名作がある。「青の洞門」を開削した僧・禅海の史実に取材した作品だが、では、この禅海さん、洞門を開削して通行料で儲けようというビジネスのためにやったのだろうか。それとも暇つぶしに趣味で洞門を開削したのだろうか。
    どちらでもなかったと思う。「仕事をした」もしくは「仕事をする」というとき、この「仕事」という言葉には、「生活のために金を稼ぐ」という意味あいと、「何かを成し遂げる」という意味あいの二通りの意味があると思う。後者の場合は、それこそ、「稼いだ金をつぎ込んでも……」そんな思いさえ感じられる。(閑話休題)

    このあと、田代さんは「電子出版は儲かる」という幻想を、数字を並べて打ち破りにかかる。

    まずは紙の書籍における売上げとコストの内訳を掲げる。定価1,000円の本が5,000部つくられ、全部が売れた場合、売上げは5,000,000円となる。それに対しコストは、書店の取り分が22%として1,100,000円。取次会社(卸し)が8%として400,000円。著者に支払う印税が10%として500,000円。次に固定費が、印刷・製本費1,250,000円。デザイン・DTP(組版)費が400,000円。出版社の経費が1,350,000円。このコスト合計が5,000,000円。差し引きは「0」、つまりは儲けなしということになる。
    同じように3,000部を印刷し、40%が返品になった場合は、細かい数字は省くとして、1,400,000円の損失となることを表を掲げて説明される。
    つまり、5000部つくって、それが全部売れてトントン。3000部つくって40%返品が発生したら、たちまち赤字となる。これが出版業界の現状だという。
    では、なぜやっていけるかというと、委託性のため、本を造っているかぎり、取次から入金があるため。3000部を書店に配本して3ヶ月後に返品が0なら、とりあえず3000部分が入金される。その後、1000部返品になったとすると、次の新刊から相殺される。つまり出版社は、「本」を作り続けるかぎり取次から支払いがあり、何とかやっていけるが、新刊が出なくなった途端につぶれるという「自転車操業」の代表みたいな業種ということになる。

    そのようにして持ちこたえている出版社に、10万部というベストセラーが出た場合。ここではじめて出版社は、37,600,000円という利益を手にすることが出来るという寸法。
    つまり出版社はベストセラーが出ないかぎりやっていけないし、そのベストセラーを狙って、本を作り続けている勝負師のような存在だと言える。そこで田代氏は、電子書籍になったらどうなるのかを説明にかかる。電子書籍だから、紙の本に比べ値段は安く設定しなければならない。ここでは750円の電子書籍が5000部売れたと仮定している。すると売上げは、3,750,000円。これに対しコストは、配信・決済料に30%、1,125,000円。著者に支払う印税、売上げの10%を支払うとして375,000円。デザイン・DTP費が、400,000円。出版社の経費が1,350,000円。コストの合計が、3,250,000円。つまり500,000円の利益が出ることになる。
    ところが、アマゾンであるとか、アップル(iPad)で、著者が直接販売したとすると、著者に70%の販売印税が出ることになる。出版社としては、今までの印税とは違い、販売印税として著者への支払いを増やして原稿を書いてもらわざるを得なくなる。しかし、そうすると販売価格をあげざるを得ない。価格を1,000円として5,000部が売れたとした場合、コストを見ると、配信決済料が30%で1,500,000円。著者の販売印税を35%まで上げて1,750,000円。デザイン・DTP費が400,000円。経費が1,350,000として利益は0。
    しかし販売価格が、紙と電子書籍と同じというのは考えられない。そのためには、デザイン・DTP費や経費などの固定費を下げていかなければならない。しかも、これら数字は5,000部が売れた場合である。
    電子書籍らしい妥当な定価450円とした場合、3,000部が売れても130万円近い赤字となる。そこでデザイン・DTP費や経費などの固定費を極端に下げて、はじめて何万円かの利益が出てくるという寸法だ。
    最後に、現実的な意味での電子出版の「コストと売上げ」例を、田代さんの「電子書籍元年」から掲載しておく。

      【例1】
      単価 450円/販売部数 1,000部/売上げ 400,000円
        配信・決済料30% 135,000円
        著者へ販売印税35% 157,500円
        デザイン・DTP費(固定費) 20,000円
        出版社経費(固定費) 50,000円   合計 362,500円
     
     ◇差し引き 87,500円の利益◇

      【例2】
      単価 600円/販売部数 500部/売上げ 300,000円
        配信・決済料30% 90,000円
        著者へ販売印税35% 105,000円
        デザイン・DTP費(固定費) 100,000円
        出版社経費(固定費) 50,000円   合計 345,000円
     
     ◇差し引き ▲45,500円の赤字◇


    田代真人さんこのようにビジネスとして考えた場合、出版というものは、たとえ電子出版となっても、かなり厳しいものになる。「しかし、電子出版にはニーズがあります。ニーズがあるからには必ずビジネスになるはずです」と、田代氏はセッションを締めくくられた。

    聞いていて思ったのは、「利益を追求するだけなら、出版には手を出さない方が賢明だろう」ということ。出版業に携わっている人たちは、ビジネスだけでなく、何かプラスアルファがあって、この仕事をやっているのだと思う。もちろん、続けていくためには、如何に低かろうが利益を生み出す道を見つけ出さなければならない訳だが……。 

    セミナー会場風景_表現のデジタル化.jpg
    コメント
    申し訳ないのですが、資料の中の表の公表は控えていただいていいでしょうか。このあたりが拙著の要になっておりまして、それを公表されると、いろいろと関係各所に迷惑を掛けることになってしまうので。。
    クローズドのセミナーでは出しますが、ブログでの公表を前提にしておりませんので。。
    なにとぞご理解くださいm(_ _)m
    • by 田代真人
    • 2010/07/19 8:58 PM
    ご迷惑をおかけしました。会場で僕が撮影した資料の写真は削除し、文章だけに変更しました。ご連絡、ありがとうございました。
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