宇宙に沈む夕陽??

2010.04.09 Friday

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    夕陽と富士山

    今回も「夕陽さんさんの会」会報に寄せられた、天文学・加藤賢一さんの歯切れのよいエッセーを、前回に引き続き掲載したい。今回は「月」や「宇宙」から見る夕陽はどのようにわれわれの目に映るのか、という興味の尽きないエッセー。


    宇宙に沈む夕陽??
    加藤 賢一(大阪市立科学館)

    1.江ノ島と富士と夕陽
    「知らざあ言って聞かせやしょう
    浜の真砂と五右衛門が歌に残した盗人の、種は尽きねえ七里ヶ浜、その白浪の夜働き、以前を言やあ江ノ島で、年季勤めの稚児が淵、百味講で散らす蒔き銭をあてに小皿の一文字、百が二百と賽銭の,くすね銭せえ段々に、悪事はのぼる上の宮、岩本院で講中の、枕探しも度重なり、お手長講と札付きに、とうとう島を追い出され、それから若衆の美人局、ここやかしこの寺島で、小耳に聞いた爺さんの、似ぬ声色でこゆすりかたり、名せえゆかりの弁天小僧菊之助たぁ俺のことだぁ!」

    −ご存知、黙阿弥の白波五人男の一場面である。振袖姿に変装して呉服屋にゆすりに入った弁天小僧菊之助、かたりに来たのを見破られ、諸肌脱いで啖呵をきったところの見せ場である。
    この白波五人男もそうだし、三人吉三でも黙阿弥は登場人物に盛んに生い立ちから始まる自らの人となりを語らせる。弁天小僧には江ノ島の弁財天に由来することを言わしめ、そこに七里ヶ浜、稚児が淵、上の宮、岩本院など江ノ島周辺の地名を織り交ぜ、観客に親しみを覚えさせる配慮を見せている。
    この場面となった江ノ島とその周辺からは富士山が美しく見える。以前、この会で、江ノ島から相模湾を挟んで対岸に位置する富士山に沈む夕日を紹介したことがあった。確かにお話はしたのだが、実は、その場面を直接は目にしたことがなく、密かにその機会を狙っていたところ、このたび目出度く実現の運びとなった。
    場所は江ノ島を目前に望む新江ノ島水族館。お天気は上々、夕方が待ち遠しい。刻々とその時が迫ってきて、心がせく。しかし、困った! 簡単に抜け出せそうにない。そう、会議が続き、今、佳境にさしかかっている。水族館に来たのは魚を見るためでもなく、もちろん、レクリエーションでもない。関係博物館の会議の会場がたまたま江ノ島水族館だったからで、私にはれっきとした仕事なのだ。間の悪いことに、夕日が見える時刻は一番大事な協議の最中であった。あーあ、とうとう、間に合わなかった! 次がその残念写真である。
    いやー、それにしても富士山は絵になる。大阪湾や通天閣の比ではない、悔しいけど。何と言っても人工のものとは違った美がある。相模湾の向こうに富士、夕陽がそれを彩る。なんとも言えぬ夕空の情景に、単純に、感動する。夕陽が沈む場面に立ち会えなかったのは残念だったが、それでも十分満足した。この光景を目にした後で弁天小僧のせりふを口ずさむと、呉服屋の場面に夕陽の富士が書割のごとく重なった。

    2.大気圏外で見たい
    昨年末、本会の会合で「宇宙に沈む夕陽??」と題してお話をさせていただいた。正直、これは困った。そもそも題の設定に無理がある。地上で寝起きしているから、朝日、夕陽なのであって、宇宙に出てしまっては成立しない概念ではないかと思われたからである。そこで、無理やりこじつけてお話させていただいた最初の項目が「大気圏外で見たい」で、スペースシャトルに乗れば約90分で地球を周回しているので、1日に15回ほど日の出入りがあり、忙しいことおびたただしい。それに曇ったり、雨が降ったりということがないから、毎回、確実に夕陽が見えるといった紹介をさせていただいた。
    スペースシャトルから捕らえた朝日・夕陽をとらえた映像があり、それを見ると結構きれいで、素晴らしい。それにはもちろん空気、大気の存在が大きく効いている。上空に行くにしたがって薄くなっていく大気の向こうに太陽が隠れていくにつれ、青から赤からへ、透き通った微妙な色合いが変化していく。
    最近、宇宙旅行を体験したお金持ちがいた。これまではいくらお金を払おうと体験できるものではなかったことを思えば、これは時代の進歩と言うべきか。

    3.月で夕陽を見たい
    ここしばらく、人間による月面訪問は休止状態であるが、月から夕陽を見ようという話は決して非現実的ではない。もっとも素人の出る幕ではないが。
    もし月に降り立ったら太陽はどんな動きを見せるだろうか? 月も地球のように自転しているので(軸の向きは地球とほぼ同じ)、朝、昼、晩が同様にある。ただし、長さが違っていて、月の1日は地球の29.5日分にあたる。つまり、月の1日=地球の1ヶ月、である。したがって、朝日が出て14日(地球の)ほどすれば夕方になり、ぎらぎらと輝くその姿のまま西の地平線に没して行く。空気のない月面では雲に邪魔されて夕陽が見えないというようなことはないし、空気がないので別に赤くなるわけではなく、情緒のないこと甚だしい。
    スペースシャトルからは地球が丸ごと見えることはないが、月まで行けば、地球がぽっかりと浮かんで見える。地球から見る月の4倍の大きさだ。この丸い大きな地球に太陽が隠れていくことがある。月食の時である。これはどう見えるか? 想像するしかないが、きっと、地球から見る日食のようなもので、徐々に太陽が隠されていくだけで、地球大気の効果はさほどないのではないか? しかし、いったん太陽が地球の向こうに隠されると地球を取り巻く輪のように大気が浮き上がり、それはそれはきれいに彩られるのではないかと想像される。これはなかなかの光景だと思う。

    4.惑星で見たい
    視点を水星、金星、火星などに移したら夕陽はどのように見えるだろうか?
    水星の1日、1年の長さは地球の59日、88日の時間数に相当する。ざっと60日:90日、つまり3:2というきれいな関係になっている。その原因はさておき、こうなるとある夏から次の夏までが昼、それからさらに次の夏までが夜ということになり、言うなれば水星では2年が1日、となる。
    金星にも同様の美しい数値的な関係があり、春〜夏まで昼、夏〜秋まで夜、秋〜冬まで昼、冬〜春まで夜、となっている。これは1年が2日、ということである。
    このように、水星、金星では夕陽はゆっくり沈んでいく。もっとも水星には大気なし、金星には厚い大気のため夕陽が見えない、というおまけがついている。
    私の夕陽の話もとうとう惑星まで来てしまった。これでいよいよ千秋楽か。

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